安いモデルを2つ束ねたら、単体最強に並んだ
— SHITATE-JP で 14モデル・4,200測定して分かったこと
2026年7月30日 / Shitate(仕立て)— AI Lab by Enabler
結論を3行で
- 1. 日本語で最も使われているモデル(DeepSeek V4 Flash・日本語トークンの27.4%)は、14モデル中の最下位 75.5点だった。
- 2. Grok 4.5(95.4点)と TML Inkling(91.1点)を束ねて審議させたら 99.3点になり、単体最強クラスの Sakana Fugu Ultra(99.3点)に並んだ。GPT-5.5 Pro(98.0点)は抜いた。
- 3. ただし「超えた」とは言えない。並んだだけで、勝敗は 1勝1敗。差は測定ノイズの範囲内。
数字はすべて自社実測。生ログ・採点コード・判定プロンプト・却下項目まで shitate.ai で全公開している。
何を測ったのか — SHITATE-JP
「AIが日本の職場で実際に働けるか」を測る公開ベンチマーク。言語の流暢さではなく、業務遂行力を7カテゴリで測る。
| カテゴリ | 問題数 | 例 |
|---|---|---|
| 法務・契約 | 45 | 下請法の支払期日の起算点はどこか |
| 商習慣 | 45 | 月末締め翌月末払いの入金日 |
| 敬語・待遇表現 | 45 | 社外メールで自社の社長に敬称を付けない |
| 文書の型 | 45 | 稟議書・議事録の構造 |
| 数字・日付 | 40 | 締め支払い・期限の計算 |
| 現場語彙 | 40 | 業界固有の言い回し |
| 行政・制度 | 40 | 各種届出・制度の要件 |
300問。作問は Claude Fable 5、事実検証は GPT-5.5 Pro と Gemini 3.1 Pro の独立2モデルが両方合格させたものだけ採用した。却下74件も理由付きで公開している。
テスト1: 14モデルを同一条件で(4,200測定)
| # | スコア | 産地 | モデル | 種別 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 99.2 | 🇯🇵 Sakana AI | Sakana Fugu Ultra | オーケストレーション |
| 2 | 97.7 | 🌏 Anthropic | Claude Fable 5 | 単体 |
| 3 | 97.7 | 🌏 OpenAI | GPT-5.5 Pro | 単体 |
| 4 | 96.5 | 🌏 xAI | Grok 4.5 | 単体 |
| 5 | 94.7 | 🌏 Anthropic | Claude Sonnet 5 | 単体 |
| 6 | 93.2 | Gemini 3.1 Pro | 単体 | |
| 7 | 92.0 | 🌏 Thinking Machines | TML Inkling | オープンウェイト |
| 8 | 91.5 | 🇨🇳 Moonshot | Kimi K3 | オープンウェイト |
| 9 | 84.8 | 🇨🇳 DeepSeek | DeepSeek V4 Pro | オープンウェイト |
| 10 | 82.8 | 🇨🇳 Alibaba | Qwen3.7 Max | 単体 |
| 11 | 79.8 | 🇨🇳 Zhipu AI | GLM-5 | オープンウェイト |
| 12 | 79.0 | 🇨🇳 Tencent | Hunyuan HY3 | オープンウェイト |
| 13 | 76.7 | 🇨🇳 MiniMax | MiniMax M3 | オープンウェイト |
| 14 | 75.5 | 🇨🇳 DeepSeek | DeepSeek V4 Flash | オープンウェイト |
判定者間一致率 93.9%(n=835)。
最下位が、いちばん使われている
OpenRouter の30日間の実データを取得したところ、日本語トークン 2,003B のうち 51.8%(内訳判明分では 68.0%)が中国発モデルで、単独首位は DeepSeek V4 Flash の 27.4%だった。
その最頻用モデルが、我々の実測で最下位の 75.5点。
安いから使われている。だが日本の職場の作法では4回に1回落とす。「一番使われている」と「一番働ける」は、まったく別だった。
14モデル中13モデルの最弱が「法務・契約」
| 最弱カテゴリ | |
|---|---|
| 13モデル | 法務・契約 |
| 1モデル(GPT-5.5 Pro) | 行政・制度 |
これは偶然ではない。日本の法務は改正の頻度が高く、条文の起算点が実務と食い違う。下請法の支払期日は「検収完了日」ではなく「受領日」から60日 — この1点を、最強クラスのモデルも落とす。
テスト2: 束ねたら勝てるのか
Sakana AI の Fugu Ultra は単一モデルではない。複数のフロンティアモデルへ動的にルーティングする学習済みオーケストレーション系だと Sakana 自身が説明している。内部で何を呼んでいるかは非公開だ。
つまり首位は「賢い1つのモデル」ではなく「束ね方」で取られていた。なら我々も束ねられるはずだと考えて、実際に組んだ。
まず勝ち目があるかをデータで確認した
オラクル上限(各問でベストな1モデルを選べたとしたら)= 100.0。300問すべてで、少なくとも1モデルが正解していた。
Sakana が落とした4問も、全部どれかのモデルが取れていた。うち1問は最安の TML Inkling だけが正解していた。
一方、単純多数決の上限は 99.0 止まり。少数派が正しい問題を殺してしまうからだ。
→ 必要なのは投票ではなく選別だと決まった。
カテゴリ別に振り分けても勝てない
「法務は A、敬語は B」と振り分ける設計も検討したが、Sakana は7カテゴリ中6つで最強だった。振り分けの上限は 99.3 で、勝負にならない。
設計は Claude Fable 5 に諮った
そして刺された。
ボトルネックは「少数派正解を拾う能力」ではなく、審議者が正解済みの296問を壊さない能力の方だ。
実際に数えると、dev半分で 全員correct=128問 に対し 意見が割れる=20問。壊しうる母数が6.4倍あった。私は拾う話ばかりしていて、壊す話を数えていなかった。
テスト3: 審議者は誰が向いているか(dev 148問で実験)
汚染を避けるため、300問を dev 148 / test 152 にカテゴリ層化で分割し、設計は dev だけで行った。
2つの指標を分けて測った。
- damage: 全員が正解している問題で、審議後も正解を保てるか(低いほど良い)
- pickup: 意見が割れた問題で、正解側を拾えるか(高いほど良い)
| 審議者 | 方式 | damage | pickup | dev推定 |
|---|---|---|---|---|
| Gemini 3.1 Pro | champion-challenger | 0/40 (0%) | 95.0% | 99.3 |
| GPT-5.5 Pro | champion-challenger | 0/40 (0%) | 95.0% | 99.3 |
| GPT-5.5 Pro | ブラインドルーブリック | 0/40 (0%) | 95.0% | 99.3 |
| Claude Fable 5 | champion-challenger | 0/40 (0%) | 92.5% | 99.0 |
| Claude Fable 5 | 自由選択 | 0/40 (0%) | 90.0% | 98.6 |
| Gemini 3.1 Pro | ブラインドルーブリック | 1/40 (2.5%) | 95.0% | 97.2 |
発見1: 審議者は正解を壊さなかった
damage は 0/40 = 0%。Fable が最大の懸念とした現象は、実際には起きなかった。懸念は正しく、結論は外れた — だから測る価値があった。
発見2: 5位のモデルが2位のモデルと同じ審議精度
Gemini 3.1 Pro(単体93.2・6位)が、GPT-5.5 Pro(単体97.7・3位)と同じ 95.0% で正解を拾った。しかも出力単価は15分の1($12/M vs $180/M)。
発見3: 最強モデルが、最弱の審議者だった
Claude Fable 5(単体97.7・2位)が、審議者としては最下位の 90.0%。
Fable 自身が事前に警告していた通りだった:
匿名化してもスタイルで自己出力を識別しうる。自己選好バイアスと作問者バイアスの二重リスク。
自分の弱点を正確に予言し、実測がそれを裏付けた。
「解ける」と「裁ける」は別の能力だ。
我々はこの法則を、同じ日に逆向きでも見ていた。ベンチの判定者を安くしようとしたとき、Hunyuan HY3 は候補として最有力だった — 小規模テストのスコアが DeepSeek V4 Pro より高く(92.3 vs 88.5)、単価は3分の1だったからだ。だが実際に採点させてみると、正答を incorrect と誤判定した(5問中2問)。安さとスコアだけで採用していたら、スコアボード全体が壊れていた。
問題を解けるモデルが採点できるとは限らず、問題を解けないモデルが裁けないとも限らない。 どちらも、その用途で直接測るまで分からなかった。
テスト4: 本番評価(test 152問・1回だけ)
構成を凍結してから test を1回だけ使った。Fable の指摘に従っている:
cheap/solid/審議者3種/閾値…を全部testで比較して最良を報告したら、それはtestでの設計。test評価は最終構成1つに1回。
| test精度 (n=152) | |
|---|---|
| ★ Shitate Orchestrator (cheap) | 99.3 |
| Sakana Fugu Ultra | 99.3 |
| ★ Shitate Orchestrator (solid) | 99.0 |
| GPT-5.5 Pro | 98.0 |
| Claude Fable 5 | 97.4 |
| Grok 4.5 | 95.4 |
| Gemini 3.1 Pro | 92.1 |
| TML Inkling | 91.1 |
cheap 構成 = Grok 4.5 + TML Inkling の2モデルを並列に走らせ、Gemini 3.1 Pro が審議する。
単体では 95.4 と 91.1 のモデルが、束ねると 99.3。GPT-5.5 Pro を抜いた。
正直に言うと、Sakana は超えていない
ペアワイズで数えると 1勝1敗。
| WIN | v1-7-266 文書の型: Sakana=partial → 我々=correct |
| LOSE | v1-7-265 文書の型: Sakana=correct → 我々=partial |
完全な引き分けだ。 152問では1問=0.66pt、判定者間一致率96%は約6問がラベル曖昧という意味でもある。測定ノイズの方が、我々が追っている差より大きい。
「Sakanaを超えた」とは書けない。
テスト5: どこまで安くできるか
| 構成 | 精度 | コスト/問 | 対 Sakana |
|---|---|---|---|
| Sakana Fugu Ultra | 99.3 | 0.57¢ | — |
| Shitate cheap(審議=Gemini) | 99.3 | 0.45¢ | 21%安い |
| Shitate cheap(審議=DeepSeek V4 Flash) | dev 99.0 | 0.21¢ | 2.7倍安い |
| Shitate solid | 99.0 | 1.85¢ | 3.2倍高い |
| GPT-5.5 Pro 単体 | 98.0 | 3.46¢ | 6倍高い |
審議者を最安モデルに落とせるかも dev で測った。
| 審議者 | 出力単価 | damage | pickup | dev推定 |
|---|---|---|---|---|
| DeepSeek V4 Flash | $0.28/M | 0% | 97.1% | 99.0 |
| Kimi K3 | $15/M | 0% | 91.2% | 98.3 |
| Qwen3.7 Max | $4.4/M | 10.0% | 85.3% | 88.9 |
最下位のモデル(75.5点)が、審議者としては damage 0%・pickup 97.1% で最良だった。
単体では14モデル中最下位。しかし「2つの案を突き合わせて正しい方を選ぶ」タスクでは最上位。しかも出力単価は Gemini の43分の1。
一方 Qwen3.7 Max は damage 10% で失格。安ければいいわけではない。測らないと分からない。
どういう場合に安くなるのか
- ✅ 効く: 定型的な日本語業務(見積・請求・稟議・問い合わせ返信)を大量に回す。1件0.21¢なら100万件で$2,100。GPT-5.5 Pro 単体なら$34,600
- ✅ 効く: 精度は落とせないがコストは抑えたい。単体95点クラスの安いモデルを束ねて99点にできる
- ❌ 効かない: 少量利用。オーケストレーションの実装・運用コストの方が高い
- ❌ 効かない: 低レイテンシが要る用途。候補生成が並列でも律速35.2秒 + 審議
それで、どうすべきか
精度で追うのはやめる
v1 の上位は 99.3 / 99.3 / 99.0 / 98.0 と飽和した。ここでの0.3ptは実力ではなく判定者の癖だ。ベンチを難しくする方が先で、非公開ホールドアウトを持たない限り、公開300問は次世代の学習データに入って飽和する。
束ねる技術は堀にならない
このオーケストレータは数時間で組めた。 他社APIの上に乗っているので、価格改定やモデル更新で崩れる。Fable の指摘が正しい:
あなたの優位は「Sakanaが未対応の候補集合を組めたこと」であって、防御可能な技術差ではない。
本当の資産は、測る道具の方だった
今日の発見は全部ベンチから出ている — 敬語が−38.1pt、日本語トークンの51.8%が中国製、最頻用モデルが最下位、最強モデルが最弱の審議者、最下位モデルが最良の審議者。
Sakana はベンチを持っていない。 そして重みも渡さない。
我々が模倣されないのは、SHITATE-JP を報酬関数にして重みを実際に動かすところだ。敬語(−38.1pt)は規則性が高く合成データを作りやすく、数字・日付(−23.2pt)は正解が一意なので強化学習の報酬にそのまま使える。我々の2大欠損は、たまたま最も安く直せる2種類だった。
使い方 — 開発で試すか、業務で使うか
🔧 開発・検証で試したい方
teai.io で、この記事に出てくる14モデルすべてを同じ OpenAI 互換 API から叩けます。モデルIDを差し替えるだけで比較できるので、「自社の業務で本当に差が出るか」を自分の設問で確かめられます。
te run "取引先への納期延期のお願いを社外向け敬語で"
te cheap run "..." # 安いモデルに切り替え
自分で束ねてみたい方へ: 本記事のオーケストレータのコードと、審議プロンプト、dev/test分割、採点コードはすべて shitate.ai/bench-method.txt で全文公開しています。再現できます。
🏢 業務で使いたい方
そのまま使うのはお勧めしません。まず測ってください。
公開している300問はあくまで一般的な日本の職場を想定したものです。あなたの業界・あなたの社内文書での成績は、この順位表とは違います。 我々自身、測る前の予想はほぼ全部外れました。
📩 専用に仕立てたい方は、お問い合わせください
以下のような場合は、個別に構築します。
- 御社版ベンチマーク: 実際の社内文書・実業務から評価セットを作る(本記事と同じ手法 — 独立2モデル検証・却下理由の開示つき)
- オーケストレーション構築: 御社の精度・コスト・レイテンシの制約に合わせて候補と審議者を選定。選定は必ず実測で行い、根拠を開示します
- モデルの仕立て(ファインチューニング): 学習データは国内から出さず、仕立てた重みは御社が所有します
- データ主権・調達要件への対応: 中国製モデルを使えない制約がある場合の代替構成
👉 shitate.ai のフォームからご連絡ください。
初回は「何を測るべきか」の相談だけでも構いません。測らずに導入して事故るより、測ってから決める方が安いです。
今日いちばん学んだこと
測らずに決めた判断は、ぜんぶ間違っていた。
- 502エラーを不正解と数えて「GPTは69点」と誤認しかけた
- 空応答を不正解と数えて「Kimi K3は69点」と誤認しかけた(エラーカウンタは0だった)
- 最強のモデルが最良の審議者だと思っていた(最弱だった)
- 最下位のモデルは使い道がないと思っていた(最良の審議者だった)
- 審議者が正解を壊すのが最大のリスクだと思っていた(0%だった)
同じ形の失敗を1日に3回した。API が 200 を返す・例外が飛ばない・カウンタが 0 — どれも「うまくいった」の証拠に見えるが、中身は空だった。成功の指標を、成功の証拠と取り違えていた。
だから対症療法をやめ、空応答を必ずエラーに変換し、リトライごとに予算を倍増して自己回復するようにした。次に同じことが起きても、システムが自分から気づく。
本記事の数字はすべて再現可能です。生ログ・採点コード・判定プロンプト・却下項目74件・dev/test分割のシードまで shitate.ai で全公開しています。
未確認事項: 国産の単体LLM(Sarashina / PLaMo / Swallow / ELYZA / Rakuten AI / tsuzumi)は未測定です。審査なしでAPIを叩けるものが限られるためで、順次追加します。「国産を測っていない日本語ベンチ」に説得力がないことは自覚しています。